これまで対面で実施していた会議をオンライン化する上で起こる問題の一つに、 「各種の投票をどのようにオンラインで実現するか?」というものがあります。
さまざまな会議では議論によって意思決定が行われていますが、 議題によっては参加者の投票によって意思決定を行っていると思います。 会議を電子メールを使ってオンラインで開催 (持ち回り審議) したり、 電話会議システムや Zoom 等の Web 会議システムを使ってライブで 開催したりしていると思います。
ここでは、オンライン投票について簡単に調べてわかったことをまとめています。 あくまでオンライン投票の専門家ではない、 単なる一教員の簡単な調査であることを理解した上で参考にしてください。
単に電子投票 (electronic voting) といえば、 従来の紙を使った投票ではなく、 電子的に投票するという手法を意味するようです。 英語名が Electronic Voting であることから、 これを略して e-voting と呼ばれています。 必ずしもネットワークを介した投票という意味ではなく、 電子機器を利用した投票という意味です。
電子投票の一部に、オンラインで (通常、 インターネットを介して) 投票するという概念も含まれており、 遠隔電子投票 (remote e-vogin)、 オンライン投票 (online voting)、 インターネット投票 (Internet voting) などと呼ばれているようです。 英語名の Internet Voting を略して i-voting とも呼ばれています。
以下の話では、オンライン投票 (i-voting) に限定します。
電子投票システムおよびプロトコルに要求されるセキュリティ特性として、 以下の分類 [1] が有名なようです。
登録された投票者だけが投票でき、 誰も許可された回数 (通常 1 回) を超えて投票できない
他の投票者の決定に影響を与えかねない途中結果が開示されない
不正を働く、ある一定数の投票者に耐えられるプロトコルである
各投票者が、自身の票が正しく集計されたことを確認できる
公表された結果がすべての票の合計と一致していることを誰でも確認できる
票が非公開であり続ける。 投票者と票の対応付けができないこととしてもモデル化できる。
投票者が (ある特定の候補者に投票したことを第三者に証明できるような) 「レシート」を構築できない。 票の買収を防ぐため。
投票の全過程において投票者が (投票行動の) 強制者とやりとりしたとしても、 強制者が投票者 (被強制者) が指示に従ったか、 または実際に他の候補者に投票したかわからない。
[1] J. Dreier, P. Lafourcade, Y. Lakhnech, ``A formal taxonomy of privacy in voting protocols, '' in Proceedings of IEEE International Conference on Communications (ICC 2012), pp. 6710-6715, 2012.
オンライン投票について考える前に、まず、オフラインでの (従来の紙を使った) 投票 の特性を確認しておきます。
→白紙の投票用紙の厳密な管理は困難、投票用紙の複製に対して脆弱
→投票表紙の回収を厳密にしないと一部の記入済み投票用紙を破棄できてしまう
→ 一部の記入済み投票用紙が途中で廃棄されても気づきづらい
→ 投票用紙を目前に並べれば確認できないことはないが、事実上、投票管理者しか確認できない
→ ただし、筆跡である程度の推測はできる
→ 記入した投票用紙の写真を取っておけばいい
○が 3 個、△が 3 個、X が 2 個です。 大した意味はありませんが、 ○、△、×をそれぞれ 2 点、 1 点、0 点として合計を計算すると 9 点です。 これを一つの基準として考えてゆきます。
関西学院の構成員が利用できそうなオンライン投票のツールを リストアップしてみました。 セキュリティを考慮して、 良さそうなものからそうでないものへと並べています。
オンライン投票では、 (1) 有権者による投票 (投票)、 (2) 投票を締め切った後に、 投票結果の集計 (開票)、 (3) 集計結果を何らかの方法で開示 (公表) の 3 つのステップに分かれます。 以下では、それぞれの方法ごとに、 投票・開票・公表のどの部分を実施できそうかを書いています。
以下では、Zoom、Microsoft Forms によるオンライン投票の 実施方法 (の概要) とそれぞれの特性を考えてみます。
上記の「セキュリティ (低) 」に分類された方法も、 カジュアルな用途 (例えば講義中に受講者からのフィードバックを得る) であれば 問題なく (用途によっては非常に便利に) 使えるものもあります。 他にも、以下のような、 ユーザ登録不要で、簡単に Web 上のアンケートを作れるサービスもあります。
なお、現在はいろいろなツールやクラウド等を使えば新しいサービスを簡単に立ち 上げられますので、調べば他にもいろいろな方法があると思います。 例えば Slack の投票用のプラグイン (?) 等もあるようです。 また、少しプログラムを書けば簡単に独自のツールも作ることができます。
ここでは、関西学院の一般の構成員の方々が利用するのに適していそう という観点で Zoom、Microsoft Forms を取り上げます。
少し前に、デスクトップ版の Zoom に投票 (polling) の機能が追加されました。 Zoom の投票機能の使い方は、 以下のドキュメントを読めばわかります。 全般的に、Zoom のユーザインターフェースはうまくできていますので、 以下のドキュメントを読むだけで一通り使えるようになると思います。
いくつか注意が必要な点を書いておきます。
Zoom の投票機能を使う場合、 (1) ホストが質問を作成する (ミーティング開始前も開始後でも可)、 (2) ホストが投票を (手動で) 開始する、 (3) 参加者が投票する、 (4) ホストが投票を (手動で) 締め切る、 (5) (必要であれば) ホストが開票結果を参加者に開示する、 (6) (必要であれば) ミーティング終了後にホストが開票結果をダウンロードする、 という流れになります。
Zoom の投票機能を使ったオンライン投票の利点・欠点は以下の通りです。 重要なものから、それほど重要ではないものの順に並べてあります。
Zoom の投票機能で「匿名」の投票をした時の特性を、 文献 [1] の分類に従ってチェックしてみます。
→参加者の本人確認が別途必要。複数の Zoom クライアントから参加していないことの確認も必要。
→ただしホストだけには途中結果が見えてしまう
→一般の投票者が不正を働くのは技術的に難しい (ただし管理者は別)
→確認はできないが不正に票を操作すること自体が簡単ではない
→ホストの集計結果を見せられる。確認はできないが票数を操作すること自体が簡単ではない。
→オンライン投票には珍しくこれが実現できる。当然、Zoom ビデオコミュニケーションズ社は知ろうと思えば知れるが。
○が 5 個、△が 3 個、X が 0 個です。 ○、△、×をそれぞれ 2 点、 1 点、0 点として単純に合計を計算すると 13 点です。
Microsoft Forms はもともと投票のためのものではなく、 オンラインでアンートやクイズを実施するためのサービスですが、 オンライン投票に利用することもできます。
Zoom と Microsoft Forms の違いを明確にするために、 Zoom の投票機能の説明と同じような順番で説明してゆきます。
Microsoft Forms を使って投票を実施する場合、 (1) 実施者が Microsoft Forms の投票フォームを作成する (必要に応じて回答可能期日を設定する)、 (2) 実施者が投票フォームの URL を有権者に通知する (Microsoft Forms からのメール送信も可)、 (3) 投票者が自身の Microsoft 365 アカウントでログインの上、Web ブラウザから投票する、 (4) 投票フォームに設定した期限で自動的に締め切られる (手動で締め切ることも可能)、 (5) 実施者が開票結果を参加者に通知する (電子メール等、別の手段が必要)、 という流れになります。
Microsoft Forms を使ったオンライン投票の利点・欠点は以下の通りです。 重要なものから、それほど重要ではないものの順に並べてあります。
Microsoft Forms を用いたオンライン投票の特性を、 文献 [1] の分類に従ってチェックしてみます。
→ただし有権者が関西学院システム利用者 ID 保持者の場合に限る
→投票実施者にだけには途中結果が見えてしまう
→一般の投票者が不正を働くのは技術的に難しい (ただし実施者は別)
→投票結果を見られるのは実施者だけなので確認できない
→投票結果を見られるのは実施者だけなので確認できない
→オンライン投票には珍しくこれが実現できる。当然、Microsoft 社は知ろうと思えば知れるが。
○が 6 個、△が 0 個、X が 2 個です。 ○、△、×をそれぞれ 2 点、 1 点、0 点として単純に合計を計算すると 12 点です。
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